表記の課題に関する研究成果の概要は次の3点にまとめることができる。まず、戦後改革における経済復興の実態の考察である。次に、復興の具体的方策をめぐって当時、どのような議論が交わされており、それが政党政治とどのように関わったのかを示すことである。最後に、経済復興における官僚と総司令部との役割を考えることである。「復興期の政党政治」と題する論文は、これらを考える際の事例として軍需補償打ち切り問題に焦点をあて、主として第一次吉田内閣期を中心に分析した。 軍需補償打ち切り問題を取り上げる際に問題となる点は、まず政党政治における分岐点ないし対立軸の形成を歴史的に跡付けることである。補償打ち切り問題は、発足直後の日本社会党、日本自由党、日本進歩党の経済運営に対してそれぞれ試金石ともいうべき課題となった。本研究では第一次吉田内閣から片山内閣に至る政党内閣が、経済運営上必ずしも対立的な位置にあったわけではないことを実証した。つまり、自由党といえども直ちに自由経済への復帰を主張した訳ではなかった。 次に、この政策課題を通して観察される総司令部経済科学局と日本側経済官庁、主として大蔵省との関係がある。つまり、経済科学局と大蔵省にとって、補償打ち切り政策及び、これによって予想される企業倒産と大量失業への対応は、それぞれの経済政策知識を問われるものであったからである。実態として見れば、占領当局と日本政府とは、政策能力において競合していた、という側面が明らかになった。今後の課題としては、次に片山内閣期の経済運営について貿易政策の実施を取り上げる予定である。この点で、政党間の分岐点が萌芽的に形成されてくる、という見通しがありこれが国際政治上の変容とどのように関連するか、という問題につながってゆくからである。
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