本年度は、まずホッブズの機械論的自然像それ自体について新たな光をあてるべく、同時代の科学革命における学問の理念とかれのそれとの比較研究を多角的に行うことを目指した。なかでも光学に関するデカルトとの論争に関するRichard Tuckの研究が提起した問題、および空気ポンプをめぐるボイルとの論争の分析を通じて近代の経験科学の理念の成立過程におけるホッブズの科学方法論の特質を明らかにしたSteven ShapinとSimon Schafferの研究の再検討を中心として、ホッブズの機械論的哲学体系と科学の理念の近代性を考察した。 また、ホッブズの政治哲学の主題を、初期近代における政治思想の変容のなかで明らかにするための研究を昨年度から進め、とくに「社会契約」の概念がホッブズにおいて成立したことを、かれにおける機械論的自然像の成立との関係で明らかにしてきたが、この知見を核として、ホッブズにおける政治哲学の近代的転換について総括的に明らかにしようと試みた。とくに、近代初期の政治思想の中心テーマであった懐疑主義と宗教的寛容の主題とホッブズとの関わりを明らかにしつつ、改めてかれの機械論的自然像にもとづく哲学体系との関わりでそれについてのホッブズの議論の特質を解明し、かれの政治哲学にとっての意味を考察した。 最後に、ホッブズ研究の現在についてのサーヴェイを引き続き行い、近年のホッブズの哲学体系の形成・展開過程についての綿密な研究と独創的な解釈を十分にふまえるために、文献についてのデータの収集と整理、およびそれらの分析を進めた。 以上の研究成果を、『ホッブズの政治哲学-機械論的自然像と近代国家-』として一巻にとりまとめて刊行すべく準備を進めている。
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