テーマ設定の大きさにもかかわらず以下のささやかな成果を提出するにとどまった.第一に、金融革新によって成立する体制下での実物経済との関係について、既存の研究の簡単なサーベイを行ったこと.第二に、金融革新ないし金融自由化の根源には、銀行システムの外部における証券市場の自立化という問題があり、特に国債市場の確立という論点が重要な位置をしめること、それは、市場と国家の関係の転換という新自由主義的経済改革とも深く係わること、さらに外国の公的通貨当局による国債市場への参加という問題と関連して、ドル本位制の構造とも深く係わること.このように国債市場の確立という問題が金融革新の背景にあり、それは経済構造や国家との関係など広範な政治経済的問題と関連している.第三に、今回の研究で、上記の諭点のうち、国際通貨体制がドル本位制に転換したことによりそれまで金本位制において果たされていた金の経済的役割が変化する点について仮説をたてた.すなわち、国家(そして諸国家連携も含めて)それ目体が金本位制下での金の流出流入によって加速化された経済的機能、たとえば恐慌による価値破壊などの機能を代行するという事態が発生してくる、そしてそのような国家の市場機能代位にさいして国債市場が、重要な役割をはたす.そして、金交換停止によって成立するドル本位制との交錯点としての位置をもつ、というものである.なお暫定的な試論である.総括的には、マルクスの価値法則の貫徹形態が変化すると換言することもできる.但しその論点に限定しても重大な欠陥がある.国家論それ自体や、国債市場の持つ意義、公信用の持つ意義については今後の課題となる.
|