研究概要 |
金融グローバル化の下で急激な資本移動がどのように金融不安定性をもたらすかを明らかにすべく、期待形成とそれを介した(ポジティブ)フィードバック・メカニズムに焦点を当てた。ケインズ,ミンスキー,G.ソロスに共通した資産評価論がどのような動態プロセスを生み出すかを論じ,過熱化したブームと、金融恐慌という別個のプロセスを統一的に説明しうる枠組みとして、ブームとバストの連続モデルを提示した。本研究の貢献として次が挙げられる。(1)証券市場に特徴的な、現行市場価格に依拠した慣行的判断によって、過去の趨勢を将来に外挿して期待を形成し、そこに引き起こされるポジティブ・フィードバック戦略について、不確実性下の意思決定を説明するケインズの確率関係,すなわちある推論を確信をもって信じうるための証拠をどれほど増大させればよいかの議論によって論拠を与えた。(2)現行市場価格に組み込まれた長期期待状態を構成する確信の状態が「金融市場が正常に機能するだろう」との市場流動性を含む期待として理解され,しかもそれが確信の程度に依存するある大きさ(幅)の流動性プレミアムによって表されるとして、(長期期待状態の短期的変化に相当する)将来の市場条件に変化があれば、そこから投機的利得を得ることができるという期待が現行市場価格には組み込まれていると理解できること。(3)そうした投機的利得は、企業家が市場参加者としてファンダメンタルズに効果を及ぼそうと意識的に生み出すことのできるものでもあって,そのとき企業家は,「再帰的な相互作用」を通じて市場条件の変化を能動的に作り出すこととなるのであって,ここから自己強化的な累積的拡大プロセスが引き起こされることにもなる。(4)価値評価におけるバイアスと、それに依存するトレンドの確立、それがバイアスを一層強化するという再帰的相互作用に訴えて動的不均衡プロセスを描ける。(5)恐慌は流動性プレミアムが急騰し資産の現在価値の逆転として理解できる。
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