本研究では、それぞれ異なる価値や目的を追求する複数の経済主体(個人、企業、国家など)の間での社会的協力の問題を、ゲーム理論の新しい分析手法を用いて考察する。特に、社会・経済環境を単に所与とするのではなく、経済主体が自発的に交渉、組織形成、制度の再構築などを行い協力の実現と発展をめざす状況を研究対象とする。 平成10年度の研究実績は、以下のとおりである。 (1) 組織形成と持続可能な発展の動学ゲーム分析 経済主体の戦略的行動、組織形成の交渉、社会発展の動学プロセスを記述する動学ゲームモデルを構築し、経済主体によって自律的に組織された協力行動が持続可能な発展にどのように寄与するかを考察した。具体的には、「社会発展の原動力は個人間の協力」であるという視点から、囚人のジレンマの世代ゲームモデルを用いて協力に基づく社会発展の可能性と発展の長期パターンを分析した。社会は成長、衰退を繰り返しながら発展し、その長期的な発展は一定のレベルに収束する、さらに、社会発展のパターンは、技術進歩などの発展の潜在能力、人口成長の限度、組織の内部費用、初期状態に依存することを解明した。 (2) 組織形成と利得分配のための交渉ゲームの理論と実験 組織形成および組織内における利得分配のための交渉モデルを構築し、交渉モデルの理論分析を行った。さらに、理論予測を検証するために交渉ゲームの実験を日本とオーストリアの大学生を対象に実施した。理論結果と交渉実験で観察された被験者の交渉行動とを比較するために、実験データの整理と予備的分析を行った。金銭的利得の最大化とともに、「相手の親切な行動に対しては親切な行動で対応し、不親切な行動には不親切な行動で対応する」という互恵主義が被験者の交渉行動の主要な誘因であることを明らかにした。
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