本研究では、それぞれ異なる価値や目的を追求する複数の経済主体(個人、企業、国家など)の間でいかにして協力関係が実現し発展していくかという社会的協力の問題をゲーム理論の新しい分析手法を用いて考察する。特に、社会・経済環境を単に所与とするのではなく、経済主体が自発的に交渉、組織形成、制度の再構築などを行い協力の実現と発展をめざす状況を研究対象とする。 平成11年度の研究実績は以下の通りである。 (1)協力と社会発展の動学ゲーム分析 前年度に構築した協力と社会発展の動学ゲームのモデル分析を発展させ、組織の意思決定ルールや効率性が持続可能な発展とどのように関係するかを考察した。さらに、経済主体のもつ選好の多様性が協力や組織形成にいかなる影響を及ぼすかを解明するために組織形成の進化ゲームモデルを構築し、モデルの予備的分析を行なった。 (2)組織形成と利得分配のための交渉ゲームの理論と実験 再交渉を許す利得分配交渉の理論モデルを定式化し、再交渉のプロセスを通じて提携が段階的に拡大することによって最終的にパレート効率的な利得分配の合意が成立することを証明した。また、提案者は再交渉の結果を合理的に推測することによって非効率な部分提携を最初に提案するという戦略的行動の誘因をもち、その結果、最終的な利得分配は提携の新規メンバーに不公平になるという再交渉の負のインパクトを明らかにした。また、日本とオーストリアでの交渉実験データの解析を継続し、日本とオーストリアの被験者の交渉行動に文化的差異がないことを実証した。
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