日本経済の現状は、不良債権問題がなお背景にあって企業の予算制約式のバランス状態が好転せず、また需要の将来状況が実物資本形成を促進するような業況とはなっていない。論文「不均衡動学の経済表」(北海道大学『経済学研究』99年3月)は、景気変動理論と一般不均衡理論との接合局面を設定し、倒産・不良債権処理に関連する諸現象の構造的側面を内挿してモデル化したものである。■現日本経済の今ひとつの焦点は貯蓄投資の不均衡にある。そのような状況下、本年3月から定期借家権が設定可能となり、住宅市場への直接的な影響とともに、住宅新投資を活性化させて資産選好を金融資産から実物資産へシフトさせ、貯蓄投資の不均衡を改善させよう。経済学者・法学者たちがこぞって定期借家権の導入を提唱していたなか、小谷清(「借地借家法の中立性」『ジュリスト』)は、定期借家権の導入に否定的な意見を唱えた。久我論文「借地借家法の中立性命題の再検討」『住宅土地経済』、2000 Winterは、一時的一般均衡・不完全市場理論等の立場から借地借家法の中立性学説が受容できないことを明らかにした。■財需要の予測と加速度原理による資本形成原理を展開し、資本財市場・消費財市場・労働市場の需給アンバランスをShort-side Principleで解析し、価格と財蓄積の動学分析を一般理論的に展開して定性的結論を得ることは理論家の夢望するところであろう。原始的とはいえ、これらの基本要素と構造を組み込んでパラメーターを与えて、不均衡時の生産主体・消費主体の意思決定モデルを、Basic Programmingを用いて開発する方向で研究を続けている。未だ印刷発表する段階には至っていないが、およその方向を研究成果報告書に添付する予定である。■なお、論文「多重共線性と一般化された逆行列について」『オイコノミカ』、March 2000(根津永二と共著)は、計量経済学における多重共線性問題を扱ったものである。該問題は、実証分析のデータ選択に際し根底にあってその様態の子細な検討が要求される。該論文は一般化された逆行列を用いるアプローチによって従来経験則として位置づけられた現象に理論的な解明を与えたものである。
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