この研究は、90年代後半に隆盛傾向にある対中東欧直接投資の体制転換への影響を解明したものである。最初に、90年代末の世界経済の諸特徴と直接投資の諸特徴について6点にわたり解明し、その諸特徴がダニングの折衷理論から分析のスポットが当てられとき、対中東欧直接投資分析がどのような理論的示唆を持つのかを明らかにした。次に、非出資型提携として外部委託加工貿易(OPT)を分析して、そこにEC(EU)政策当局者の意図を超えて、ドイツ系多国籍企業が「弾力的生産様式」を発見し、中東欧企業も適用と「学習能力」を発揮したことを解明する。本研究の中心である次の章では、市場経済化への影響の如何を中東欧とその企業の技術革新能力が滋養されているのか否かで判断した。ここで中東欧の包括的研究によりながら明らかになったことは、一方では、多国籍企業の進出により国民的R&D基盤の解体が促進され、瀕死の状態にあり、他方では進出の時間の経過とともに改革先進諸国ではR&D基盤の形成が始まっていること、また市場重視型直接投資から第2段階の新しいタイプの直接投資への移行の萌芽が観察されることを明らかにする。しかし、上記の分岐した直接投資の評価はひとつの特徴として総合することが困難なであり、対中東欧FDIはモザイク模様であるととらえた方がリアリティがあり、その意味で直接投資を通じたEU・世界経済への中東欧の統合は複線的に理解することがよいことを提唱する。最後に、全体のまとめとして、直接投資が近代化に果す役割の評価の分裂を克服する道として、地域のイノベーション・企業家精神の経済・制度・社会的基盤の格上げ(スミスとパヴリーネクの「地富論」)に注目し、直接投資がその役割を果すことが理論的にも、実践的にも重要になることを示唆する。
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