最近話題になったデビットカードやインターネット・バンキング、ネット銀行等新型銀行など、新しい電子的決済方法の登場で、狭義の電子マネー(決済手段の電子化)の影が薄くなった感があるが、従来の決済システムに依存する決済方法の電子化は、システミックリスクなどの安全対策や様々なシステムを接続する標準化について限界がある。そのために生じる通信コストや、手数料など店側の負担も無視できない。電子マネーはそうした問題を回避でき、少額の支払いを中心に次第に利用が広がっていくだろう。 この研究では電子マネー(狭義)の貨幣論的位置づけを明確にすることを主題とした。1本来の貨幣は金であるが信用制度が整うにつれ銀行券や預金通貨が生まれた。これらは信用で貸し付けるものだが貨幣として機能する(信用貨幣)。発券が中央銀行に集中されると普通銀行はもっぱら預金通貨の設定で与信を行う。2信用貨幣には銀行の債務証券が流通する銀行券と買い手の支払指図書が流通する預金通貨がある。預金通貨の振替方法を電子化した電子的決済方法とは異なり、電子マネーは発行体(新型銀行)の信用力に支えられて流通する電子ベースの債務証書で決済手段の電子化である。場合によっては中央銀行の発券独占が崩れる可能性がある。 電子マネーの本質をめぐる議論は、19世紀イギリスの通貨論争の再版である。当時、銀行券発行は本位貨幣に厳格に結合されたが、その後次第に緩和され、現在では管理通貨制度になった。信用貨幣の発行は金など本位貨幣に一義的に規定されるものではない。 電子マネーの金融システム・金融政策への影響は、どのような形で、どの程度普及すると想定するかで異なる。たんなる送金手段の域を越えて広く転々流通する可能性、中央銀行券とは自立して流通する可能性を考えると、現在の議論はまだ入り口に過ぎない。 地域通貨のようなコミュニケーション・ツールとしての貨幣の用い方に注目すれば、市場経済と貨幣の概念が多様で膨らみを持ったものになる。現在の市場経済を相対的にとらえることで、電子マネーの可能性もさらに拡がっていくだろう。
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