本研究では、閾値自己回帰モデル、指数自己回帰モデルなど離散時間一変量非線形時系列モデルを多変量へ拡張することを目的とし、多変量間の非線形関係をモデル化する際に利用するシミュレーションべースによるアプローチの応用可能性を研究するとともに、多変量化の一つの方向として、非線形モデルのよる予測値を結合する結合予測量を提案し、様々な経済時系列に適用してその有効性を確認した。具体的には、これまでの研究代表者が行ってきたガウス性検定に関する研究から、株価収益率や失業率など一部の経済時系列を除き、多くの経済時系列は、線形(ガウス)と非線形(非ガウス)の境界にあることが確認されている。それらは、観測期間によって線形と非線形の性質が混在しており、その典型的パターンは、ある時期を境にして線形(非線形)から非線形(線形)へ性質を変え、標本期間全体として不明瞭な性質を示す。これに対応できる方法として、非線形性をある程度示す時系列に対して、周辺モデルである線形自己回帰モデルと非線形モデル(閾値自己回帰モデル、指数自己回帰モデル)を結合し、それぞれの特徴をポイント・ワイズに捉えることの出来る分析モデルを提案した。その際、結合係数が一定のモデルと時間と共に変化するモデルの両者を考え、前者は標本全体として各周辺モデルの優位性を評価でき、後者は各時点でモデルの役割を評価できるモデルを提供する。様々な経済時系列に対してこれらの方法を適用し、内挿においては結合予測量が周辺モデル予測量を一様に凌駕し、外挿においても結合予測量が有効な局面が多く存在することを確認した。この他、連続時間で記述された多くのマクロ非線形経済動学モデルの"局所線形化"法による統計的推測を扱い、実際の経済データに応用し実証分析を行った。
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