本年度の研究成果は、以下の3点である。 第1は、戦後都市研究の文献サーベイであり、インドネシアのジャカルタ研究の動向と研究課題を提起した論文「ジャカルタ首都圏研究の動向と課題」である。戦後半世紀のジャカルタ都市研究を、植民地都市論、戦後の過剰都市化論、現代の首都圏メガ都市論の3潮流に大別し、各々の研究の特徴を内外の文献渉猟によって分析した。 第2は、植民地都市の歴史的発展をインドネシアのバタヴィ(現ジャカルタ)に即して検討した論文「植民地都市バタヴィの社会と経済」である。オランダ東インド会社によって建設されたがタヴィが、多民族都市として発展する歴史を追跡し、さらに民族と労働の相関にも着目して、植民地期の都市経済の成長を特徴づけた。 以上の2編の論文は、共に拙編著「アジアの大都市[2]ジャカルタ」(日本評論社、1999年)に収めている。 研究成果の第3は、現代東南アジアの都市労働市場研究の一環として、若年女性労働者が参入する労働市場の特徴について、インドネシアの主要産業を事例として検討した論文「開発と女性労働-インドネシアの事例分析」である。現代東南アジアの開発工業化(規制緩和・外資導入・輸出製造業育成を柱とする輸出志向の工業化)は、各国の産業構造を大きく転換するとともに、労働力の大規模な再編成を引き起こしており、その顕著な特徴のひとつは、都市部を中心とした製造業の労働市場に女性労働者が大量に参入するようになったことである。本論文では、労働の女性化が典型的に見られる運動靴産業、縫製業、アグリビジネスの実態調査報告を素材として、若年女性の就労実態(労働力の高学歴化、長時間労働・低賃金・短期勤続・社会保証欠如などの不安定就業)を明らかにした。
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