4年に亘る本研究の総括を行うにあたって、その最終的な分析課題を次のように設定した。すなわち、1990年代以降に開発工業化の新たな拠点となった東南アジアの数か国(地域)を事例として、大都市(首都圏)の成長に伴う都市労働市場の編成の現局面を検出し、さらに国際比較を試みることである。事例分析として実態調査を行った大都市は、マレーシアのクアラルンプル首都圏、ベトナムのホーチミン都市圏、インドネシアのジャカルタ首都圏、シンガポールの「成長の三角地帯」、以上の4か国(地域)である。 各国(地域)の事例分析とその国際比較から得られた結論は、以下の如くである。第1に、都市労働市場の重層的構造、および個別企業における文節的内部労働市場と労働力の序列化。都市労働市場の文節性は、学歴・技能・性別といった共通の要因だけでなく、当該国の特殊要因(多民族性や人口規模など)も重要である。第2に、労働力供給源の現段階。都市工業労働力の給源は、各国経済発展の成熟度や国家編成(農村後背地の存在如何、都市国家の地域市場圏戦略など)の特性によって大きく異なっている。また労働市場の組織性・開放性の進展度によっても異なる。第3に、日系企業における日本的経営・生産システムの定着度。能力評価を重視した人事考課は各国の日系企業にほぼ共通しており、日本的システムの導入は概して限定的である。最後に、アジア経済危機と都市労働市場の反応。臨時工・社外工や外国人労働者を労働力の需給調整に活用するなど、経済危機下の労働力対策は、本研究で特徴づけた都市労働市場の階層性と労働力の序列化に対応して実施されている。
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