EUと中・東欧の自由貿易協定は、暫定協定、欧州協定と締結され、非農産物の自由化率を達成した.この結果、EUの対中・東欧域外輸入比率は大きく伸びる一方で、特定工業品では域外輸入の大きな比率を占めてきた.大競争時代に巻き込まれたEU諸国は、自由貿易協定による逆輸入を視野に入れた、中・東欧の低労働コスト利用の直接投資も急速に拡大させてきた.このために、EU地域の製造業での高コストの是正が進展してきたのであった.一部高コストの見直しをはかることで、九二年市場統合完成後、EUは貿易構造を大きく変えた。第一に、EU貿易は域外依存を強め長期にわたり貿易収支を黒字化させている。第二に、EUの域外輸出依存の高まりは新興経済地域への依存の高まりであり、ダイナミック・アジア、中・東欧への依存の強まりを特徴としていた。これは両地域での高い成長率に誘引されたものであった。同時に、EU市場統合による「国民経済」化を背景にしたEU産業・企業の域内にわたる再編成であったとともに、特に対中・東欧への直接投資の展開による国際分業の再編成であった。この結果、中・東欧との関係では東アジアとの関係とは異なり、従来型の労働集約型工業を域外に配置する分業関係を持った。とは言え、急速に東アジアと同様の先進国型工業化が中・東欧で進む。現時点では、EU貿易収支の黒字は中・東欧の工業化の過渡期の姿である。 九九年EU通貨統合はEU域内をより「国民経済」化するとともに、中・東欧をユーロ圏に強固に結びつける。他方で、経済の連携と共に政治的結びつきにも拍車がかかる。アムステルダム条約はEUの二一世紀における東への「拡大」を具体化するものであり、「アジェンダ2000」は現実的取り組みの枠組みを提示している。この過程で、中・東欧地域はEU産業企業に一層の投資地域対象になる。
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