マクロ的所得分配と政策決定にかかわる諸理論の検討をすすめる一方、東アジア諸国(韓国、台湾、インドネシア、タイ)における産業を軸とする所得分配に関する政府・民間のインターフェイスの比較検討を行った。 まず、これらの国におけるインターフェイスの変化は、1980年代以前における縁故主義と官僚的統制から民間部門の台頭を前提とした集団的な利害関係の表明システムの発生、展開として把握される。 この利害関係の表明システムは国ごとに大きな差異があり、産業を軸とする利害のシステムはタイにおいて最も顕著にみられ、韓国において最も弱いと考えられる。この強弱は、官民間の情報の流れ、産業間、産業内、企業内の所得とレントのシェアリングについての吟味を通じて判定された。ただし、企業内のシェアリングについては、労働組合運動、雇用制度、賃金制度などについての情報が十分でなく、暫定的判断にとどまっている。 次に、こうした国別の差異の生じた理由として、(1)階級対立すなわち生産要素所得者間の利害対立と(2)農業の産業としての力、特に税収および外貨獲得の面での重要性、および(3)圧力団体との関係、イデオロギーおよびコントロールしうる資源の多寡から判断される政治の力、の3点を検討した。こうした諸理由によって、産業を軸とする所得分配に関する政府民間のインターフェイスの国別差異を一応説明することができたと思われる。
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