以下の内容の本(英文)を出版することに努力の大半を費やした。この本はイギリスの出版社と出版交渉中であり、ほぼ年内出版の線でかたまりつつある。 本のタイトルは「所得分配をめぐる対立と経済発展-アジアからの視点」であり、所得分配をめぐる民間部門内の対立がどのように集約され、これに対して政府がどのような態勢で対応するかという問題を歴史的・比較論的に分析した。 所得分配をめぐる対立に関する政府と民間とのインターフェイスは、国によって地域によって歴史的局面によって大きくことなる。戦後日本を代表とする東アジアでは人々の所得分配にかかわる要求は、産業別に組織され、政府の産業別「原局」が利害調整を行なった。こうしたインターフェイス上の特色は1980年代以降の東アジアにおいても、程度の差はあるものの、ある程度みられる。我々の調べた4カ国では、タイにおいて最も顕著であり、韓国ではきわめて微弱、台湾とインドネシアは中間的であった。他方、ラテンアメリカとくに我々が調べたブラジルでは人々の所得分配に関する対立は生産要素の所有すなわち階級関係によって代表される。政府は組合を労働者、使用者双方に組織させることによって階級間の利害の調整を行なった。 以上のようなインターフェイスのちがいは、経済のマクロ安定性、産業政策の有効性および経済全体のガバナンスの点で、経済のパーフォマンスに大きな影響をもつ。戦後日本とブラジルの比較で言えば、経済のキャッチアップの過程では、日本にくらべて階級間抗争に依存する。ブラジルでは、インフレ傾向に陥りやすく、また産業政策のコーディネーションがより困難である。また所得分配にかかわる対立の中での中産階級の立場はブラジルではより不安定であり、経済全体のガバナンスが不安定化しやすい。 他方、経済のキャッチング・アップを終了した段階では、日本型の産業利害の調整に依存したシステムは別の困難に直面する、デフレ圧力、消費者とサービス消費財産業との対立、預金金融機関ンの非効率の問題などがこれである。
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