研究概要 |
独占禁止法では,独占のみならず独占的状態について競争を阻害する場合には公正取引委員会が何らかの措置を取る旨記されている.現実の企業を見ると,私的独占は皆無であるが,独占的状態は数知れず存在する.例えば,国内の市場シェアが70%を超える場合がそれに当ると思われる.強大なシェアを有する企業は企業分割や特許の解放等の情報開示の措置が当局において取られる可能性が高くなる.独占禁止法が当局によってそれらが実行される可能性があるとき,それが企業行動に与える効果を2つのモデルを構築し,考察した. 1つは,公正取引委員会による企業分割の可能性があるときの企業行動であり,2つ目は特許やノウハウ等,企業が保有する生産技術情報を強制的に開示させられるときの企業行動である.最初の分析は確実性下で,しかもクールノー型複占モデルを用いて行われた.この場合,企業分割が市場シェアが高い企業に対して行われるならば,明らかに公正取引委員会の意図は達成される.企業に強いシェア抑制効果を生む.他方公正取引委員会が社会厚生がある最低値を満たすように,企業を誘導する攻策を取ることは必ずしも適性ではない. 2つ目の分析は不確実性下を組み込んだ2段階ゲームモデルを用いて行った.この場合,当局は強大なシェアを有する企業に特許等を相手企業に開放させるペナルティを課すものとする.最初の段階で企業がR&D投資を決定し,2段階で産出量を決める.第1段階で,当局の態度の不確実性が存在するとき,企業のR&D決定はその不確実性の影響を受ける場合と,そうでない場合がある.また当局が独占禁止法を実行するか否かに関係なく,特許等の生産に関する情報の開示が当該企業にとって利益となることもある.
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