企業の福利厚生制度の設計、運営は、各国の社会政策、社会保障における重要な政策課題となっている。その福利厚生の中心となってきたのが団体定期保険であり、本来の趣旨は遺族保障である。ところが、日本においては近年、遺族のためではなく、企業の事業活動のために使われることが少なくなく、社会問題となってきた。これに対する研究がほとんどされていなかった。 当該研究期間(3年間)に行った主な研究と成果の概要は、次のとおりである。 (1)わが国における社会保障と福利厚生のあり方、労使関係、日本社会全体の問題として、本件を総合的に検討した。 (2)団体定期保険約款に関する資料収集と検証を行った。その結果、日本においても1934年の団体保険の創始時から1970年代半ばまで、保険金の「企業受取り禁止」が約款上も明記されていたことが判明した。 (3)団体保険問題の背後にある、日本商法100年にわたる「他人の生命の保険契約」の系譜を跡づけた。その結果、同意主義のもとでは「被保険利益」の存在を不要としている今日の通説を再検討する必要が明らかとなった。 韓国でもわが国と同様、団体保険をめぐる紛争が社会問題化しており、今後、日韓の比較検討を行う。 また、本研究をふまえて、望ましい企業福利厚生のあり方、社会保障政策への私的保険の活用にあたっての社会的基準、社会政策、社会保障の理論課題を検討していきたい。
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