今日における「直接投資」の現象を捉える上で、いわゆるOLIパラダイムの枠組みは不十分となっているというのが、本研究がスタートした時点における、基本的な問題意識であった。3年目を迎え、本研究も2つの方向から、この問題意識にたった、直接投資研究の枠組み拡大を進めている。まず、竹森は、直接投資を、証券投資などの間接投資と峻別するこれまでの考え方に疑問を投げかけ、直接投資の「金銭的側面」に焦点を当てた研究を進めている。企業の所有権について、単にOwnership Advantageだけでなく、金銭的な構造が問題となるのは、資本市場が不完全で、M・M定理が不成立の世界があるからである。バブルの発生と崩壊という、日本経済のマクロ・金銭的変化が対外、対内直接投資に影響をあたえていることに、まさに不完全資本市場の影響が現れている(こうした点は、東洋経済刊行書で論じられている)。また、通貨危機を迎えた東アジア経済が、通貨危機後に、外資の導入を通じて、情報産業を中心とした産業構造の転換を迎えたという点にも、やはり金融的側面の重要性が現れている(三田学会雑誌の論文)これに対して、木村は、対外進出を果たした邦人企業の、ミクロ・データを用いた分析により、直接投資という行動自体が、企業にそのOwnershipの内容の変革を迫るきっかけとなることを明らかにしている(NBER刊行書の論文、および通産省のディスカッション・ペーパー)。この点で、企業がすでに持つOwnership Advantageを前提にして直接投資の決定をするという、OLIパラダイムの考え方は不適当といわざるを得ない。日本国内で活動している業種と異なった分野に進出することや、合併など異なった経営形態が直接投資を契機にとられることは、常態だからである。来年度は、新たな発見をもとに、直接投資についてのより包括的な思考の枠組みを模索していく予定である。
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