昨年度までの理論的・実証的研究成果を踏まえ、今年度は(1)企業特殊要素の存在を前提とした企業の国際化・内部化の理論的研究およびそれに基づく政策論、および(2)整備が進んだロンディテューディナル・データを用いた実証研究を行った。 (1)については、伝統的な国際貿易理論に企業特殊要素をそのまま導入することは困難である。しかし、企業特殊資産の用い方と企業の内部化の態様を注意深く観察して、標準的な理論モデルから得られる知見と組み合わせることにより、直接投資パターンの説明や直接投資をめぐる政策論に多くの示唆が得られることがわかった。たとえば、2001年度を通じて農産3品目についての暫定セーフガード措置が問題となったが、その背景には、直接投資を含めた新しい態様の企業の内部化が存在していた。また、アジア通貨危機が日本の対アジア直接投資に与えた影響を考える際には、アジア経済のIT化とそれに基づく企業特殊資産の変化、内部化の態様の変化を考慮することが必要である。これら政策論との接点の部分で、竹森は論文を数編執筆した(『エコノミスト』論文、和田賢治氏との共同論文(未公刊)など)。 (2)については、1994年度から5カ年分の日本企業に関するロンディテューディナル・データを用いて、木村が中心にいくつかの実証研究プロジェクトを進めた(清田耕造氏との共同論文(forthcoming)など)。特に注目したのは、日本企業の輸出・直接投資活動を通じての国際化が、企業内組織や企業間関係にどのような影響を与えたか、という問題である。特に、1990年代は長期不況の中で企業リストラが進んだ期間であり、企業のパフォーマンスにも大きな差が生じた時期でもあった。実証研究の結果、国際化が進んだ企業の方が、リストラも含めたパフォーマンスが良い傾向にあることが明らかとなった。 以上の研究成果を咋年度までの成果に加え、現在、最終報告書を作成中である。
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