直接投資という現象を、企業が所有する「無形資産」における優位を前提として、「立地」と「内部化」についてなされたその企業の選択の結果として認識しようというのが、今日でも直接投資の研究の支配的な方向である「OLIパラダイム」の考え方である。こうした考え方に基づいた過去の研究の成果を踏まえながらも、それを超えたより幅広い視点から直接投資の現象を見直そう。さらにその新たな視点をミクロのデータによって検証しよう。それがこの研究の目的であった。こうした問題意識に立って、日本企業による直接投資に関するロンジチューディナルなデータを用いたミクロの実証分析を進めた木村は、実証結果を5本の論文にまとめた。この研究により、直接投資の推進にあたり、企業は内部化の選択と立地の選択を、OLIパラダイムが考えるように独立に扱うのではなく、同時に決定すべき問題として扱うことが明らかにされた。また、「無形資産」の存在を直接投資の出発点にあるものとするOLIパラダイムの前提とは異なり、直接投資の経験そのものが、企業の所有する「無形資産」の優位性を生み出す場合もあることも、企業の存続、退出や、企業改革に関する実証分析を通じて明らかにされた。また、竹森は直接投資を通常の金融投資とは別の原理で動くものであるとするOLIパラダイムの基本思想を疑うことから出発し、90年代における、金融投資、直接投資を含めた国際投資全般の攪乱を分析した。その結果、97年の通貨危機が収束した後における、東アジア諸国、とくに韓国の投資パターンに変化が生じていることをデータにより指摘した。さらに、それがポスト・バブルの景気低迷期の日本における投資パターンとは、きわめて異なったものであることを明確にした。
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