研究概要 |
世界資本主義の発展は,ソ連=東欧社会主義体制の崩壊以後のグローバルなレベルでの市場経済化の進展や,EUの成立やAPECの展開において好景気が続いていたアメリカも踊り場を迎え世界的不況の嵐を間近に控え種々の軋轢や矛盾が噴出しはじめてきていることに示されるように進展するグローバリズムとリージョナリズムの併存と相克という特徴づけに集約される本質的な転換の局面に入ってきている。とはいえ、世界経済において国民経済や国民国家の役割が否定される新たな傾向が生じ,資本主義経済における急速な発展がみられることも確かである。東アジアでも,80年代後半世界経済の「成長センター」といわれ,また97年アジア発の通貨や株式市場における動揺の世界的波及とそれへの独特な反応が示したように,グローバル化の進展と同時に香港・マカオ返還後の中国を含む東アジアの独特な(政治)社会経済的事情との相克,一言にしてグローバリズムの進展とリージョナリズムとの絡み合いが独特の形で現れてきている。この点は,タイの通貨危磯を発端とするアジアの通貨・経済危機への広がりと,またそれへの対処における各国における独特な方法とにおいて端的に現れてきたようである。 本研究は,進展するグローバリズムとリージョナリズムとの関連の中で,とりわけ香港返還後の中国を中心とした東アジア経済成長のメカニズムの解明とその展望を明らかにすることを研究課題としているが,本年度は研究の最終年度として収集した資料の分析と理論的検討、それぞれの問題意識、作成中の論文骨子の検討を加え、最終的成果を冊子としてまとめ上げることを主要課題としている。 その際,グローバリズムとリージョナリズムの両側面の展開の主要な現れであるアジア経済危磯への対処の仕方の評価をめぐって産業ごとの特性を摘出し、その理論的検討を行ってきた。その一成果が、アジア経済危機に対する東アジア地域の自動車産業の対応と再編過程を分析した風間「アジア経済危機と東アジア自動車産業の構造転換」として公表された。深刻化するアジア通貨・経済危機のなかで、通貨危機の現れにおいてグローバリズムとリージョナリズムという観点からみて独特な様相を示してきているが,それは多国籍企業によるグローバルな資本展開と相関的な各国独自の発展戦略との関わりがあり,この点を現代資本主義とアジア途上国経済の課題として基礎的=理論的レベルで問題にしたのが、堀中「グローバリゼーション下のアジア途上国経済の課題」であり、同「現代資本主義とグローバリゼーション」として公表された。また本研究の特色のひとつであるアジアにおける国際物流の動向について小出が「アジアにおける国際物流の展開」を公表した。なお、昨年10月以降のアメリカ経済の景気の後退は、IT産業の動向が深く関わっているが、その動向との連携においてではあるが日本国内の産業動向として切開して分析したのが、柿崎「最近の半導体産業の動向について」である。
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