水戸康夫(1999)は、多項ロジット・モデルを用いて、日本企業の立地選択要因の分析を行なった。 徳永・石井(1995)、深尾(1996)、若杉(1997)、乾(1998)を取り上げ、どのような方法で分析が行なわれ、どのような共通点を持っており、何が問題点であるのかを指摘した。企業は自由に立地を選択できるという想定等を問題点として取り上げ、出資比率100%の子会社のみを対象とすることにした。水戸康夫(1999)では、1994、95、95年にアジア11か国・地域(韓国、中国、台湾、香港、ベトナム、タイ、シンガポール、マレーシア、フィリピン、インドネシア、インド)に進出した、出資比率100%の製造子会社351社に対して、多項ロジット・モデルを適用した。予備的推定において、「ワーカー賃金」、「名目GDP」、「インフレ率」、「実質GDP成長率」を説明変数として、検討を行なった。「ワーカー賃金」、「名目GDP」が予想外に有意とはならず、本推定では「インフレ率」のみを説明変数とした。 分析の結果、「インフレ率」が自由な選択が可能な場合における選択基準であることを明らかにした。しかし予想に反して、符号条件を満たさない国・地域が多くあった。経済的な要因である「ワーカー賃金」、「名目GDP」、「インフレ率」、「実質GDP成長率」が有意にならなかったことや、「インフレ率」が符号条件を満たさないことから、日本企業の海外立地選択は、経済的要因以外の要因も重要であると言える。 水戸康夫(1998)でのゲーム理論において、リスク中立的(risk neutral)な立地選択を否定し、リスク愛好的(risk loving)な立地選択を仮定しての分析を行なっている。経済的要因以外の要因も重要であるという上述の結論は、水戸康夫(1998)での仮定と整合的であり、更に、非経済的要因に関する研究の必要を示唆する。
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