本研究課題と研究計画にしたがって、今年度は帝政期の西南ドイツにおける金融構造の地域的特質を地域工業化との関係で研究した。その結果、以下の諸点を明らかにした。 1. 19世紀後半に始まる西南ドイツ・ヴュルテンベルクの工業化は主に綿工業と機械工業において展開したが、官営工場を除いて、これら部門の多くの産業企業は経営資金を自己調達しており、それで不足する場合は親戚知合い等を通じて調達していた。また外部から融資等を受ける場合でも、銀行の役割は小さかった。 2. こうした産業金融の特質の理由は、何よりもヴュルテンベルクでは銀行の発達が遅れたことによる。19世紀後半に入ってもなお個人金融業者が支配的であり、産業との関係を主要業務とした銀行としては、1869年のヴュルテンベルク協同銀行が最初であり、結局第一次大戦まで同行のみが主要商業銀行であった。同行の証券発行引受先企業は一部を除いて多様であり、産業と企業の密接な関係を結論することは難しい。 3. 帝政期にベルリン大銀行の影響がヴュルテンベノルクに及ぶことは、なお一般的ではなかった。シュトゥットガルトに支店を置いたのはわずかにドレスデン銀行のみであり、また一部の個人金融業者が資本参加を受けたにとどまる。こうした経緯から、第一次大戦までは金融構造の地域性が残されていたと言える。 4. 西南ドイツの金融構造で見逃せないことは、貯蓄銀行と信用協同組合の比重の大きさである。預金量では明らかに商業銀行を上回っており、資金の貸付先はそれぞれ地域自治体と域内中小企業・農業経営である。以上の地域金融構造の特質は西南ドイツの地域工業化に深く関連していたと考えられる。なおこれらの内容については、次年度前半中に紀要論文として発表すべく現在投稿準備中である。
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