本年度は第一にカメラ・ミシン・自転車・時計などに代表される軽機械諸産業の実態および海外市場の動向分析に力点を置いて研究を進めた。その過程で戦後軽機械工業の発展に対する大阪府の工業奨励館や産業能率研究所などの公設試験研究機関の役割がきわめて大きいことが判明したため、上の調査とともに同機関に関する調査も並行して行った。なお、公設試験研究機関に関する研究成果の一部である論文「戦後復興期における公設試験研究・能率研究機関の活動:大阪府立工業奨励館と大阪府立産業能率研究所を事例に」(原朗編『復興期の日本経済』上・下卷、東京大学出版会、平成11年度刊行予定)と「ある能率技師の戦前・戦中・戦後-園田理-の活動を中心に」 (『大阪大学経済学』第49巻第3・4号、平成11年度刊行予定)は平成11年度中に刊行される予定である。 第二に各産業の内部における問屋・製造問屋・アセンブリーメーカー・パーツメーカーの具体的なあり方に関する調査・分析はまだ社史・業界・団体誌・若干のヒアリング調査のレベルにとどまっているが昭和20年代における海外市場に関する市況情報がどのような形で業界団体・個別企業にもたらさ札それがいかにして現実の輪出商談に結びついたのかについては切削・作業工具業界の事例を分析できた。各個別産業におけるこうした生産・流通ネットワークの具体的なあり方とその変化の方向性を明らかにし、そこから軽機械工業全般に関するより一般的な分析を行うことが次年度以降の大きな課題の一つである。 第三に中小企業政策に関しては中小企業庁成立前後の事情と工業規格制定過程ならびに工場診断制度について調査した。ここでも大阪府の戦前・戦中期の中小企業製作が戦後の中小企業庁の政策立案に大きな影響を与えていることが確認できた。
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