本年度は軽機械諸産業における生産・流通ネットワークの具体的なあり方に関する調査を継続し、さらに軽機械諸産業の発展を支えた制度的諸条件(インフラストラクチャー)、すなわち各種工業組合・協同組合などによって構成される業界団体の活動、通産省・中小企業庁・地方自治体・民間経営コンサルタントの活動、輸出検査の実態と検査員の養成方法、中小企業関連の政府系金融機関の役割などについて調査を進めた。なお公設試験研究機関に関する研究成果の一部を、論文「ある能率技師の戦前・戦中・戦後-園田理一の活動を中心に-」(『大阪大学経済学』第49巻第3・4号、2000年3月)に纏め、「戦後復興期における公設試験研究・能率研究機関の活動:大阪府立工業奨励館と大阪府立産業能率研究所を事例に」(原朗編『復興期の日本経済』上・下巻、東京大学出版会、平成12年度刊行予定)も平成12年度中に刊行予定である。 以上の調査を通して大阪の軽機械諸産業の発展にとって府立工業奨励館や府立産業能率研究所の役割がきわめて大きいことが判明した。一例を挙げると戦前以来の工場診断の実績を有する府立産業能率研究所を中心とした大阪府の実践と新たな中小企業政策を模索・構想していた商工官僚の出会いが、中小企業庁主導の工場診断制度が全国に普及する契機になったものと思われる。また戦後復興期には戦前以来の能率技師がマネイジメント・コンサルタントに転成していくが、中小企業診断員登録制度の整備と相俟って彼らが軽機械工業の近代化に果たした役割も無視しえないものがあった。
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