本研究では、第1にカメラ・ミシン・自転車・時計などに代表される軽機械諸産業の実態および海外市場の動向、第2に各産業内部における問屋・製造問屋・アセンブリーメーカー・パーツメーカーの具体的なあり方、第3に中小企業政策の立案・実施過程およびその政策効果について研究を進めた。 その結果、戦後の軽機械工業の発展に対して戦前・戦中期の活動経験を継承する技術者・研究者に率いられた大阪府立工業奨励館・大阪府立産業能率研究所などの公的試験研究機関の役割がきわめて大きいこと、切削・作業工具業界の輸出商談の成立に際しては業界団体・大阪府立貿易館の活動などと相俟って上記の機関が重要な役割を果たしたこと、さらに産業発展の前提である工業規格制定作業においても業界・大学関係者などとともにこれら諸機関の技術者が深く関与していたことなどが明らかになった。とくにミシン業界などでは規格制定によって大量生産・標準化のための諸条件が整備され、当該産業の輸出産業化が促進されることになった。 戦前以来の工場診断の経験を有する府立産業能率研究所を中心とした大阪府の実践と新たな中小企業政策を模索・構想していた商工官僚の出会いが、中小企業庁主導の工場診断制度が全国に普及する契機となったこと、また中小企業診断員制度の普及と相俟ってこの時期におけるマネジメント・コンサルタントの活動が軽機械工業の近代化に無視し得ない影響を与えたことも明らかになった。
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