研究概要 |
ここ数年来、研究代表者は、現代福祉国家の歴史的意味を明らかにするという問題関心から、ドイツ社会保障史の展開を辿るという作業を続けてきた。これまでの研究をとおして明らかにされたのは、19世紀後半から第1次世界大戦にいたる時期にドイツでは、総合的な扶助制度として出発した救貧制度は、それが典型的に展開したエルバーフェルトの事例に即してみれば、次第に生活保護に純化する傾向を示した、ということであった。そして、それには、救貧制度を補完するものとして1880年代から社会保険制度が制定され、発展してきたことが大きく影響したものと考えられる。 そこで、本研究の出発点は、第1次世界大戦が勃発する直前のドイツにおける社会保障政策を全体として理解しておくことであった。そうした課題に迫るべく、第2帝政期ドイツを代表する社会政策思想家の1人であるルーヨ・ブレンターノの社会保険制度にかかわる考えを手がかりとして、社会保険制度の歴史的性格に対する理解を深めようとする試みがなされた。1999年1月に公表された「ブレンターノの労働者強制保険論」はその成果である。 以上をふまえて、現在は、第1次世界大戦期におけるドイツの経済・社会の変動を具体的に把握する作業を、J.Reulecke,Die wirtschaftliche Entwicklungder Stadt Barmen von 1910 bis 1925や、J.Kocka,Klassengesellscaft im Kriegをはじめとする、この領域におけるドイツの代表的な研究成果の消化と検討をとおして進めている。
|