研究概要 |
本研究の課題は、第1次世界大戦のドイツ社会保障制度史における意義を明らかにすることにあった。予想をこえて長期化し,全体戦争となった大戦のなかで,それまでに定着していた第2帝政期ドイツの社会政策がどのような問題に直面し,それらをどのまでどのように解決し得たのか,あるいは解決し得なかったのか,残された問題への対処としてどのような政策が打ち出されたのか,それらは総体としてどのような性格・特徴を有していたのか,といったことが解明されねばならなかった。 第2帝政期から定着していた社会保険制度と救貧制度については,大戦期には制度の改正も限られており,そうしたなかで,これらの制度はそれぞれの機能をそれなりに果たした。他方では,当初の大量失業への対応としての失業救済から始まって,戦時経済の動きを支えるための職業紹介,労働力の配分統制へと進む労働市場政策がとられ,それを可能にするために,企業や経営のなかでは労働者の団結が認められ,その主張・要求を取り入れる機構もつくられていった。また,出征兵士留守家族の救済や戦傷者・帰還兵士,戦争遺族の扶助に関する新しい制度がつくられたが,これは,従来の救貧制度とは異なって理念に基づくものであった。さらに,家賃の補助や信用供与といった中間層対策も取られたし,深刻化する食糧事情に対応して,食糧供給に関する規制もなされた。 このように,戦時期の社会政策はきわめて多様な内容をもっていたが,それら相互間では,実際に運営ですりあわせが必要であったり,理念上の齟齬があったりした。また,国民各階層では,その点を含んで,将来の社会体制をどのように形成していくのかについて,様々な構想が併存し,対立していた。敗戦の混乱のなかで成立したヴァイマル共和国は,そうした問題を解決する課題を背負っていたのである。
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