昨年度に引き続き、本年度も都市と農村の両地域における史料の調査・収集をさらに進め、研究を進展させた。都市部については、昨年度撮影した、東京大学社会科学研究所所蔵の京浜工業地帯調査史料の分析を進めた。この資料は、1950年の時点で、川崎市大工場で働く50名について行った聞き取り調査であり、出身地・生家・続柄・教育歴・職歴移動などが詳細に分かるものである。つまり、1950年に時点で川崎市の大工場で働く50名が、どのような経路をへて川崎市に流入してきたのかがよくわかるものである。それによれば、この段階の工場労働者は、仕送りや就職のきっかけなど、さまざまな面で生家(農家が多い)や出身地(農村が多い)とのつながりを残している者が存外に多かった。こうしたつながりが、労働者の性格や地域社会にどのような影響をおよぼしていたのかを検討することが、今後に残された課題である。農村については、昨年度に続き、山梨県南都留郡西桂村の兵事関係史料や戦時農山村の統制に関する史料を調査・収集した。今のところ、戦時から戦後にかけての地域社会の変化は巨大なものがあったが、それは戦時動員と戦後改革の二重の衝撃によってあらわれたものであり、二重の衝撃の歴史的意味については過不足なく評価することが肝要であること、その点の分析を農村と都市の双方にわたって進めているところである。なお、この調査の成果の一端を、論文「農村社会と都市社会」にまとめた。
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