本研究の課題は、これまで申請者が蓄積してきた研究を前提に、20世紀初頭から現在という比較的長期のスパンをとって、日本型企業システムの形成、展開、変容のプロセスを追跡する点にあった。本年の行なった主要な作業とその実績は以下の通り。 1)金融自由化、規制緩和以降の企業の負債選択を、我国企業の制度的特性を考慮した独自のモデルを通じて分析した。この時期企業は、期待収益(将来収益とデフォルトリスク)にしたがって負債を選択していたこと、この関係をメインバンクシステムが増幅していること、そのことは銀行にとって顧客プールの悪化を意味することが、その主要な結論であった。この成果のうち、理論部分は本年度公刊し、実証部分は、日本経済学会で報告の後、ワーキング・ペーパー(WP)として公表した。現在、英文のジャーナルに投稿準備中である。 2)1955-1990年代という比較的長期間に関して、銀行・企業の役員派遣と企業パフォーマンスとの関係を分析した。少なくとも、1980年代までは、銀行・企業の役員派遣は経営の規律者として機能していたこと、但し、その改善効果はドラスチックではないこと、1990年代には変化が生じていることが、主要な発見である。この分析は、日本経営史学会全国大会で報告した後、WPとして公表し、現在適当な邦文のジャーナルに投稿準備中である。 3)戦後復興期と呼ばれる、1950年代前半の企業行動を、『本邦事業分析』(三菱総合研究所)を利用して独自のデータベースを作成を前提に、資産再評価と利益金処分、戦後改革のインパクトと負債構成、資金調達と投資行動、金融・投資行動に対する生産物市場の影響等の諸点につき分析を試みた。この成果は、『証券経済』で既に発表された。また、今年度は、その成果の拡張として1950・60年代の投資関数の推計を試みた。その英文ドラフトは、統計研究会コンファランスで発表されるとともに、英文のWPとして公表した。 4)本年度は、1980年代以降の企業の設備投資・R&D支出と資本構成・コーポレート・ガヴァナンスの関係の分析にも取り組み、暫定的な推計結果を得た。2000年度もデータを拡充し、分析を進める予定である。 5)上記の作業と並行して、2000年度中に刊行予定の単著(仮題『日本の経済制度・産業政策・経済成長』に取り組んだ。これまでの本助成を得て進めてきた分析の取り纏めの試みである。
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