研究概要 |
研究初年度として、今年度は主に資料の調査、収集(マイクロフィルム化)、解読,および関連研究のサーヴェイを行なった。ロンドン史の財政に関する記録はその大部分がロンドン市文書館に所蔵されいるが、夏期のロンドン滞在中に主な資料の調査と閲読を行なった。17世紀に関してはCash Book(現金出納簿)、孤児財産や市の借入金を記録したLedger,Journalと呼ばれる会計記録、財政状態に関する調査報告、石炭税収支書など、多様な資料が利用できることが判明した。もっとも重要なものは、Cash Accounts(現金勘定書)と呼ばれるもので、1633年から1942年まで、210巻が残されている。そのうち1633〜44年の11年分をマイクロフイルム化して取り寄せた。また1661年度のCash Accountを1例として取り上げ、その概要を学内の紀要に紹介した。その池に、Cash Books、CoalAccounts等の一部もマイクロフィルム化し、現在解読、分析を進めている。 17、18世紀のロンドン財政に関する刊行された研究はまだないが、未刊行の学位論文には先駆的研究があり、これも閲読することができた。これらの調査から、17世紀を通じてロンドン財政は、不動産・市民権認可料・役職免除料等からの伝統的な歳入が伸び悩む一方で、歳出が大幅に増加し、その結果、市の累積債務は、特に大火以降、急速に膨張したこと、それを補ったのが市に委託された孤児財産の運用であったこと等が明らかとなった。今後はこれら先行研究を踏まえて、資料のより本格的な分析を進めていく予定である。並行して、本研究についてロンドン首都研究所所長のレヴューを受け、また財政問題の背後にある経済・社会の実態を明らかにするため、近世ロンドンについてのふたつのサーヴェイ論文を発表した。
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