最終年度である本年度の研究は、二つのことを中心に行った。一つは、これまで刊行されたことのない17世紀ロンドン市の財政史に関する原史料を整理し、史料集を完成することである。本研究ではCity's Cashと呼ばれるもっとも包括的で基本的な史料、および監査目的で作成されたこの最終的な会計報告書の草稿にあたるCash Bookと呼ばれる現金出納帳をとりあげ、前者は1643/4年、後者は1669/70年のものをほぼ完全な形で転写し、Excelに整理してデータベース化を完了した。もう一つは、このデータ、およびこれまで収集してきたその他のデータをもとに、17世紀のロンドン財政の実態とその長期的変化を分析することである。暫定的結論は次の通りである。ロンドン市の財政は16世紀末から17世紀前半にかけて急速に規模を拡大した。市の所有する不動産からの収入や市民認可料などの中世以来の財政収入はほとんど増加せず、規模拡大はもっぱら市民らからの借り入れ、および孤児財産の利用によりまかなわれた。財政規模の拡大には、ロンドンの急膨張に伴う都市経営のコスト増大という側面があったが、より重要なのは、この時期のロンドン市と王室との結びつきの強化であった。ロンドン市の金庫は実質的に王室財政の一端を担うのとなっていった。内乱期以後、50年代後半には財政には改善が見られるが、王政復古以後、再び悪化の傾向をたどる。1666年の大火はロンドン市財政にも大きな打撃を与える。だが、それは決定的な契機というより、拡大を続ける首都ロンドンと、中世的な都市法人の性格を留めるロンドン市の間に生じた矛盾から必然的に生れた結果だった。この矛盾は、ロンドン孤児財産、および国家財政そのものの基盤の整理が始まる1690年代以降の「金融革命」の進行により、初めて解決されることになる。
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