本年度の研究は、日本における金融危機の急速な展開に対応して、銀行部門の経営問題と金融規制のあり方を理論的、実証的に分析することに関心を集中させた。とくに銀行の不良債権の実態とそれが生じた理由を経済理論、とくに経営統治理論(corporate governancetheory)の視点から分析した。銀行は金融システムにおいて重要な仲介機能を発揮するが、とくに借り手企業の経営をモニターする役割を担っている。しかし銀行自身に対しても、その経営を監視し規律を与えるメカニズムが必要である。そうした仕組みとしては、大雑把に(1)銀行が資金を調達する金融・資本市場の規律づけメカニズム、(2)銀行業、さらには金融サービス業における市場競争の圧力、(3)政府による監督行政、に大別できる。しかし日本の銀行業についてみると、預金保険制度や政府による銀行救済が金融・資本市場の規律メカニズムを弱体化したこと、金融自由化はある程度進んだものの、政府が既存の銀行、金融機関を保護する姿勢を維持したために不徹底であったこと、また政府の監督体制も不充分で、とくに銀行経営の健全性に対する認識が不十分であったこと、などのために、銀行経営を監視し規律を与える仕組みが有効に働かなかったことが示された。 また、金融監督の責任を負う官庁と監督される立場にある民間銀行との間の人的な関係、すなわち「天下り」関係が、銀行に対し健全経営を求める規制の有効性を阻害する可能性があることも明らかにした。これらの研究成果の一部は、キャンベラ、ボストン、滋賀などで開催された国際会議において報告した。
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