本研究では、1960年代末から1970年代前半のニクソン政権期における諸政策の形成・実施過程を素材として、戦後アメリカ連邦財政の構造的な特質を分析・検討するために、「戦後のパクス・アメリカーナにおける基軸国の役割」と「現代の豊かな社会におけるアメリカ型福祉国家」という2つの要因に規定される政策形成及び運営過程を、議会審議の場に提出された資料と財務省の内部資料を中心に、実証的に検討した。 その成果報告書の論旨は以下のごとくである。 第1にニクソン政権期はベトナム戦争の終了によって軍事支出が削減されるだけではなく、1960年代のジョンソン政権期に立法化された福祉拡充策の実施に伴う福祉関連支出の「爆発」の圧力下で、軍事支出が抑圧れた時期である。 第2に、それは、対外的にはいわゆるニクソン・ドクトリン等によるパクス・アメリカーナ編成コストの分担要求となってあらわれた。第3に、そのような軍事予算額での抑制圧力の下で、国防省のイニシアティブで「資本集約」的な方向での軍事力の構造変化も進められた。 さらに第3に、1954年税制改革の歴史的役割が、戦後の基軸国の軍事費を賄う租税負担の国民的受容の確認であったとすれば、1969年税制改革のそれは、1954年税制改革で確定した租税負担が軍事費から本格的な福祉拡充のためのものに転換することの承認であったと考えられる。またインフレの中のブラケット・クリープで大衆課税は強まったので、企業年金や民間医療保険を奨励する租税優遇措置の租税支出も拡大して、アメリカ科他福祉国家の拡充に寄与した面も見逃してはならない。
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