研究概要 |
市場メカニズムが効率的な資源配分を達成するためには,財・サービスについて市場が存在し,「市場価格」がつかなければならない。しかし,「市場」(取引の場)をセットアップし,よく機能するようにこれを維持するためには,経済資源が投入されている。例えば東京証券取引所(以下東証)では,売買取引の円滑な処理のためネットワークやコンピューター,人的資源が投入されている。その際,取引を行なう最終的な供給者や需要者をはじめ,その仲立ちをするものについても,市場取引が強制されたものではない以上,取引をすることによるメリットがなければならない。 今年度は,東証における株式取引の制度が,株式市場を市場として成立せしめるための「流動性」供給手段は指値注文の板にあることに注目したモデル開発を行なった。すなわち東証における株式売買は,成行き注文と指値注文がつきあわさせることで成立しているから,株式を購入(売却)したという投資家の反対側にたって株式を売却(購入)する主体があらかじめ市場に出しておいた指値注文がなければ,売買は成立しない。この意味で指値注文の板が市場に流動性を供給しており,取引の場としての「市場」を作り出しているといえる。ここでそのような指値注文を出す主体は,最終的な株式の売手の場合もあれば,証券会社の自己売買部門など,証券市場が活発であることから何らかのメリットを得る主体の場合もありうる。主体によってどのようなメリットあるかは異なるとはいえ,(反対サイドの指値注文がある限り)ただちに約定される成行き注文と比べると,指値注文は,価格面では有利でありながら約定(売買)が成立するかどうかは不確実であり,このトレード・オフをどう評価するかは共通のポイントである。そこで,指値注文の執行確率の推定を行ない,結果を取りまとめ中である。
|