研究の主題は、少子化、人口成長率、労働市場の高齢化が、どのようなメカニズムでもって、経済成長率に影響しているかを理論的かつ実証的に分析することである。「労働者の高齢化のもたらすもの」(オイコノミカ、1998)では、少子化が、労働市場の高齢化を通じて、経済成長率を下落させる理論的メカニズムを提示した。労働市場の高齢化の進行は、高齢労働者に比べて相対的に稀少となった若年労働者の賃金の上昇が、賃金プロファイルの勾配を鈍化させ、若者の人的資本への投資を減少させ、ひいては長期的な経済成長率を引き下げるというのがここで提示されたメカニズムである。この結果は、人口成長率の減少が一人あたり産出量を増加させるというこれまでの標準的な新古典派経済学の考え方と相反しており、かつまた少子化が将来の経済活動の停滞をもたらす可能性を示唆している点で、日本の将来像を予見する貴重な考え方を提示している。"Aging in the Labor Force and Slowdown of Future Economic Growth in Japan"(オイコノミカ、2000)では、前出の論文をもとに、日本の現実のデータを使って、将来の少子化の経済成長率へ及ぼす影響を、シミュレーション分析で予測をおこなっている。現在のペースで少子化が進行したとすると(特殊出生率が1.4)、標準的なモデルとされるソロー型成長モデルで計算したときと比べて、2055年には21.1%、一人あたり消費量の水準が低くなるという計算結果が得られた。
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