本年度の研究は、1997年に始まるアジア通貨金融危機の香港への影響についての分析と、その中から明らかになってきているアジアの金融システムと欧米の金融システムの相違について分析を進めた。 前者に関しては、1997年10月及び1998年8月の投機攻撃に対する香港金融管理局の政策を具体的に究明した。この過程で、香港金融管理局は外貨準備を用いて株式市場に介入して株価を買い支えることによって通貨投機を撃退した。これは、香港がカレンシーボードシステムによる固定相場制を採用しているために、金融政策を有効に利用できないための緊急の措置であった。しかし、このことは従来から自由放任あるいは積極的不介入主義を政策上の理念としてきた香港にとって、政策の大きな転換を意味するかもしれない。90年代に入って香港は介入主義的傾向を強めてきており、その中で設立された香港金管理局が積極的な政策を展開するのは、いわば当然のこととも言える。 後者に関しては、欧米の金融システムがarm's length systemを基本にするのに対してアジアの金融システムがrelationship-based systemをとっているという主張から、ここに危機の原因を求める考え方が出てきている。欧米流のシステムがcommon law概念を基礎にしたシステムであることからすると、香港は長らくイギリスの統治下にあり、その意味で欧米流のarm's length systemが根付いているようにも思われる。しかしながら、香港の金融システムは急速に中国本土のシステムに同化しつつあり、上で見たように介入主義的あるいは裁量主義的な傾向を強めてきていると言ってよい。その意味で、香港の金融システムに関しては上で挙げたアジアの金融システムの二分法は必ずしも適合的な分析用具にはならないと考えられる。
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