伝統的な流通系列化政策の問題点が指摘される今、日本の代表的な寡占メーカーは、製販同盟などの新たなチャネル関係の構築を急いでいる。本研究の目的は、日本型流通システムの説明要因としての「信頼関係」に注目しながら、「信頼メカニズムの問題性」という新たな切り口から、流通系列化から製販同盟へという昨今のチャネル政策の大転換に潜めているモメントを理論的かつ実証的に究明することにある。現在、おおむね以下のような研究実績を収めることができた。 (1) 理論的研究:流通系列化の動揺と新たなチャネル関係の台頭は、日本型流通システムの根幹を成す信頼関係に思わぬ悪循環のループが存在すると考え、その具体的なプロセス・モデルを提示し、さらに信頼メカニズムの問題性に関する理論仮説を立てた。このような信頼メカニズムの再認識を通じて、昨今のチャネル研究の傾向(すなわち単に現象的に一方が逆機能を呈しており、他方が順機能を表しているからという結果論的な理解)に警鐘を鳴らすと共に、従来の流通系列化と新たなチャネル関係の両者を同時に分析するための比較動学の視点の導入が不可欠であると主張した。 (2) 実証的研究:理論的研究で示された「日本型流通システムにおける跋行的な信頼メカニズムの問題性仮説」の有効性を確認するために、流通系列化政策の代名詞としての松下電器産業のチャネル政策の歴史的展開のケースと、ファッション・ブランド製品を巡っての欧米のブランド・ホールダーと日本の卸売業者の間の相互関係を分析したインポート・ブランド産業のケースを取りあげ、実証的に分析した。両者の分析を通じて、日本の流通系列化政策がこれまで信頼に基づいた長期継続的協調関係によって順機能を発揮してきたが、間もなく慣れ合いによる不合理的側面が浮き彫りになった。結果的に今日のような熾烈な市場競争環境の下で生き残るためには、従来の信頼メカニズムの全面的な修正を余儀なくされることが確認された。
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