本研究の目的は、日本の代表的な多国籍企業を対象に、その国際事業の統括組織の構造と機能を主としてインタビュー調査を通じて明らかにすることにある。今年度も前年度に引き続き松下電器産業(株)を対象にインタビュー調査を行ってきた。それは、周知のように同社が、海外経営の歴史、海外子会社の数、関連する事業部や製品の種類、展開する地域の多様性と、いずれの指標においても日本の多国籍企業の代表的存在といえるからである。また、同社におけるインタビューにおいても、前年度と同様に、本社の経営企画室および国際企画部、東京本社の国際関係部、各事業部を主たる対象としてきた。そこでのインタビューを通じて、投資、製品や市場の選択、人事などを決定する際の権限が、本社、事業部、地域統轄本部、海外子会社の間でどのように分担されているのか、そうした決定を行う際にどのような形でフォーマル・インフォーマルな情報の交換がなされているのか、といった点に関して、前年度調査のフォローアップとより掘り下げたデータの収集を行った。またそれに加えて本年度は、海外学術調査(研究代表者:安保哲夫)において収集したデータとの関連づけと本研究を個別事例からより掘り下げて行うことを兼ねて、同社の欧州AV事業に関して、本社、地域統轄本部、事業部のそれぞれの立場からのヒアリングを次の点を中心に行った。すなわち、欧州事業展開の沿革と背景、統括組織の概要(報告、決裁、情報交換)、投資、資金調達、人事、製品投入、部材調達に関する意思決定(権限の所在)、拠点間の分業関係とその調整(製品、市場など)、現地従業員および出向者の教育訓練などである。
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