本研究では環境の変化に伴い企業競争が激しくなっている企業の組織編成に関してエージェンシー理論と取引費用理論の有効性について浮き彫りにし、理論的に明らかにした。これらの分析から次のようなことを解明した。(1)プリンシパルとエージェントの二層からなる内部組織において効率的な資源配分を行なうとき、強いインセンティブを与えられた組織ではエージェントの分権化や独立性が高まり組織の生産性も高まるが組織をコントロールするためのエージェンシー・コストや取引費用も高まる。エージェントを動機付けるための価格やボーナスと罰金、また割り当て等の採用による適切なインセンティブ・システムのデザインの仕方がある。シャーキングを避けるためモニタリング制度、インセンティブ・システム、内部監査により組織の非効率を避けることができる。(2)不完備契約によって取引費用が高くつくとき、企業は費用と便役のトレードオフを通じて、市場で取引することを止めて、統合した組織をつくり経済効率を上げようとする。所有権理論は機会主義的行動を抑制し取引費用を節約するので統合した組織をつくる論拠となる。組織のコーディネーション効率の観点からは取引費用とリスク・コスト、セットアップ・コストの和が最小になるところで組織の複雑性の程度が決められる。情報技術の発展は取引費用を節約するので組織の形態を変容させる。(3)取引費用理論とエージェンシー理論によってさまざまな組織構造を分析できる。活動の関連性と技術変化を考慮することによって戦略的に組織を選択できるし、取引費用と内部化を考慮することによって多様化の程度を決定できる。また内部化費用と時間を考慮することによって多国籍企業の組織構造を選択できる。市場と組織の中間に位置するネットワークにあっては取引費用の節約が効果的かつ効率的であるとき維持され、競争上の便役を得ることができる。
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