当該研究期間内の最終年度にあたる今年度は、これまでの研究を踏まえた研究成果の取りまとめを行い、裹に記載されているように、学会誌での発表を含め、これまでの研究に基づく成果の公表に努めてきた。これらを通じて、とくに確認しえた点は、ドイツの自動車メーカーが1990年代に入って「トヨタ生産方式」をモデルとしてMITのウォマックらによって提唱されてきた「リーン生産方式」ないし「トランス・プラント方式」に積極的に学習し、これを自社の生産システムに積極的に導入しようとする動きを確認することができた。当初は、旧東ドイツの新設プラントからその導入が開始されたが、その後は旧西ドイツ事業拠点にも大規模に展開されつつあることも確認できた。しかし、同時にドイツの自動車メーカーは、こうした日本の生産システムからの学習だけではなく、自らの生産イノヴェーション、とくに大胆なプラットフォーム(車台)の共通化とこれを基礎とする部品コストの大幅な削減、生産モジュール化の大規模な採用をも行っていることを確認することができた。そしてこうした生産合理化の動きはドイツにおいてこれまで「労働の人間化」の下で展開されてきた集団作業方式とは異質な作業組織を生み出しており、この「リーン生産方式」に基づいて展開されている新しい作業組織を巡ってドイツの労働社会学ないし産業社会学の分野で大きな論争が起きていることを明らかにしてきた。 本研究が当初、仮説として提示した日本の自動車産業におけるドイツの生産方式の影響については、十分な実証的成果を得るまでには至らなかった。しかし、日本の自動車セットメーカーにおいても、とくに日産に顕著なように、生産モジュール方式やプラットフォームの共通化、部品単価の削減といった生産合理化の方向は確認できるけれども、当初の仮説で提示した「ドイツ的生産モデル」に顕著な「労働の人間化」の方向は、グローバル競争の激化により進展していない。しかし、この点に関してはドイツでさえも現在、コスト削減、生産性向上による国際競争力の強化が何よりも生産合理化の戦略的課題とされており、「ドイツ的生産モデル」自体が動揺していることも事実なのであり、こうしたグローバル競争の激化の下で「労働の人間化」をどのように展開していくかが今後大きな課題となるであろう。
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