企業年金の積立不足は、現在、企業にとって重大な問題になっている。確定給付契約は将来の不確実性に関するリスクを企業が負担しており、企業価値の評価に影響をおよぼす。SEC基準のもとで公表される年金情報は将来指向的な側面を有しており、それを企業価値の評価に結び付けるためにOhlsonモデルを使用して、どの程度の影響をおよぼすかについて分析した。発見事項は以下のとおりである。 1.予測給付債務と年金資産の差額ならびに未認識純損失は時系列で見た場合に、近年においてその増加は直接的ではなく、下に凸の2次関数的に増加している。 2.予測給付債務と年金資産の差額ならびに未認識純損失は、企業価値の評価大きな影響を持っていないが、最小年金負債調整額を資本合計から控除する場合としない場合では評価額に差が出る。 Ohlsonモデルから導かれる企業価値は市価と簿価の差額が異常利益で表されることを意味しているが、異常利益の大きさは資本の大きさに影響を受ける。異常利益は、投下資本が無危険利子率で運用された場合に、獲得される利益を超過して得られた利益だからである。市価が企業年金に関わる情報を織り込んでいるとするならば、ここでの分析結果は最小年金負債調整額が単なる計算上の控除項目であり、実際の企業価値の評価ではそれを控除しない資本合計が用いられていることを示している。
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