税務会計研究における税務計画アプローチの理論を体系化するために、以下の研究を行った。 1 本アプローチに基づく研究の先進国であるアメリカにおける現在の到達研究水準と、そこで確立されている分析枠組みの内容の把握。 2 税務計画の理論構造の解明。特に、明示されない税と税裁定の関係および限界税率の均衡過程の解明。 3 税務計画における限界税率の重要性の指摘、およびわが国の税制のもとでのその態様の解明。 4 わが国の税制が企業の税務計画を通じて企業行動に及ぼす影響の分析。具体的な分析内容は次の通りである。 (1)税制が企業の法的組織形態の選択に及ぼす影響に関するシミュレーション分析を通じて、法人税率と個人所得税率の関係および給与所得控除制度の存在によって、2段階課税を受ける会社形態の方が、1段階課税を受ける個人事業形態よりも税務上有利になることを明らかにした。 (2)限界税率が企業の会計行動に及ぼす影響に関する実証分析を通じて、限界税率の高い企業が税コストの負担軽減を図るために税務計画を重視するのに対して、限界税率の低い企業はむしろ報告コスト負担の軽減を重視し、税務計画を軽視していることを明らかにした。 (3)税制が給与支給形態に及ぼす影響と課税の不公平に関する実態分析によって、フリンジ・ベネフィット課税に甘いわが国の税制が、役員や従業員に対する給与の現金給与からフリンジ・ベネフィットヘの置換えを促進しており、しかもその置換えの程度は企業規模や業種によって格差があることから、課税の公平性に歪みが生じていることを明らかにした。
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