研究成果の概要は、つぎの4点に要約できる。 第1は、分析概念の問題である。分析概念として「みなし債務」(constructive obligation)を提示して、この概念が98年に公表された国際会計基準19号(改訂)「従業員給付」において最も重要な概念として位置づけられていることを明らかにしたこと。この概念によって、労働債務には法的債務はもちろん、より広く衡平法上の債務や従来の労使関係にもとづいた慣行による給付がふくまれるものと捉えたこと。 第2は、労働債務の内容についてである。労働債務として、年金、退職一時金だけでなく各種の企業内福祉をもふくむ給付を対象としたこと。その結果、現物給与、社内預金、有給休暇、疾病休暇から、ストック・オプションまで広範囲におよぶ給付を労働債務の対象とした。 第3は、会計上の認識の問題である。この点については、労働債務の現在価値をとらえる場合の割引率の妥当性、キャッシュフロー問題、ならびに財務報告問題など、多角的に扱ったこと。 第4は、比較会計制度アプローチを提示した点である。わが国の退職給付の会計基準だけでなく、国際会計基準、米国基準、イギリス基準、そしてドイツ会計制度を対象として、比較会計制度の観点から労働債務問題を扱ったこと。
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