(1)反シンプレクティック対合を持つK3曲面の普遍族に対して、その解析的トーション(を対合の固定曲線の解析的トーションで補正した量)がIV型Hermite領域上の(一般化された)保型形式で与えられる事を示した。特に、Enriques曲面の解析的トーションがBorcherds Φ-関数に一致する事を示し、種々の2-elementary格子に対してこの結果が一般化できる事を示した。その結果、Del Pezzo曲面に関連するある種のK3曲面の解析的トーションは、一般Kac-Moody代数の分母関数である事が結論された。この代数はWeylベクトルを持つ奇ユニモジュラー双曲型格子の系列に対応し、Weylベクトルを持つ偶ユニモジュラー双曲型格子に対する系列と併せて、分母関数が判別式軌跡を特徴付ける保型形式で与えられる興味深い一般Kac-Moody代数の系列を成すものと思われる。これらの代数の幾何学的意味は良くわかっていない。 (2)K3格子内の2-elementary双曲型格子の集合に、包含関係から定まる半順序を精密化した半順序を導入し、その半順序に関する極大格子を偏極とするK3曲面を考察した。極大格子偏極K3曲面の族に対応する保型形式の(正規化された)制限としてすべての対合付きK3曲面の族が得られるという点で、極大格子を偏極に持つK3曲面の族は、対合付きK3曲面の族全体の中で最も基本的な族である。その結果、極大格子に対しては、解析的トーションが無限積展開を持つ保型形式(Borcherds積と呼ばれる)のPeterssonノルムとして表示される事がわかった。この事実は極大格子以外の2-elementary格子に対しても多くの例で検証されており、一般的に成立するとの予想を得た。より一般のシンプレクティックではない群作用を持つK3曲面のモジュライ空間は複素双曲空間の算術商として実現されるが、この場合にも解析的トーションを用いて判別式軌跡を特徴付ける保型形式が構成されると期待される。
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