申請者は、U-統計量に関する大域偏差の理論(large deviation)を用いた解析を行った.ここで用いる大域偏差の理論は、Cramer型ではなく、Donsker-Varadhan型である.U-統計量に関するCramer型大域偏差理論について1980年代にいくつかの結果が得られていたが、Donsker-Varadhan型は全く示されなかった.これは従来からしばしば用いられているU-統計量に関するHoeffdingの分解定理による方法に明らかな限界があるためで、本研究ではU-統計量をバナッハ空間に値を取る確率変数列の和で表現する方法によって解決した.これは申請者がU-統計量に関する概収束型不変病理の研究ではじめて用いた方法で、Hoeffdingの分解定理のような古くから知られている方法とは全く異なるものである. また混合性を持つ定常な確率過程にノイズが混入するモデルを考え、ノイズが混入する時刻を推定するためにU-統計量に非常に良く似た推定量を定義し、その誤差の評価を得た.U-統計量に関する大域偏差の理論をこのようなU-統計量に近いタイプの統計量に応用することで、従来困難であった精密な評価を得ることできたまたU-統計量は多重ウィナー積分を近似する統計量であるので、多重ウィナー積分の近似定理の精密化の観点からも応用が考えられる. さらに数回にわたる熊本大学 税所康正助教授との研究連絡によって反射壁確率微分方程式の近似解の精度について研究し、その成果を平成11年12月の東京大学での研究集会において発表した.
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