昨年度の報告にも記したとおり、本研究は数学においては確率論、作用素論、直交項式論、ポテンシャル論、また物理においては量子カオス、2次元重力場理論などおおくの分野と関連する。そこで本研究を遂行するにあたりなによりも大事なのはこれらの分野の研究者と可能な限り多くの意見交換の機会を持つことである。幸い、代表者と各分担者はそれぞれ異なる専門をもちながらも量子カオスという対象に強い関心をもち、また各地の研究者との共同での研究の気運も起きている。今年度は、研究補助費を用いて、筑波大学の南就将氏や東京工業大学の白井朋之氏、東京大学の楠岡成雄氏、舟木直久氏、慶応大学の田村要造氏と頻繁に研究連絡を行なった。その結果、千代延は、昨年度に得られたランダム行列の理論と直行多項式の理論の交差するJohanssonの仕事の確率論からの解釈の結果をさらに拡張し、確率論的により一般化した形で独立確率変数に対するひとつの極限公式を得た。それについての論文を完成させて、現在投稿中である。杉浦は、実数全体のうえの連続関数のうえのギブス測度の性質について調べ、それについてのエルゴード定理にあたるいくつかの結果、特に対数的ソボレフ不等式を証明した。それについての論文は、現在投稿中である。青本は、超幾何関数の研究の延長として、ランダム行列の研究を開始し、青本自身が得た超幾何関数の定理を無限次元化することにより、ひとつの変分公式を得、それをlogポテンシャルをもつSchrodinger方程式の解のFeynman-Kac公式による表現(経路積分)に対する応用を得た。それについて、論文を完成させ、現在投稿中である。3人は研究補助費により、日本の各地で開かれるシンポジウムに参加し、得られた成果を発表した。このように、研究の打ち合わせ、文献による調査、論文の執筆、成果の発表など、研究の遂行において研究補助費を補助条件にしたがって、十分に活用した。
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