研究概要 |
本年度の研究実績は以下のとおりである. (1) 力学系のホモ/ヘテロクリニック軌道の分岐の研究:ベクトル場の定める力学系のホモクリニック軌道や複数のへテロクリニック軌道のなすループは,それ自体構造不安定でベクトル場の微小な摂動により崩壊し,それに代わって力学系はいわゆるカオスを含む様々な複雑な挙動を示す.特に退化したホモクリニック軌道がその管状近傍内を2周するホモクリニック軌道に変化する,いわゆるホモクリニック倍分岐が,無限回引き続いて起こり集積する現象がベクトル場の2パラメータ族で摂動に関して安定に起こり得ることの数学的な証明を完成させた.またこれに関連して,ある余次元3の退化特異点からある種のヘテロクリニックサイクルが分岐によって出現することを示した.これによってこの特異点からカオス的アトラクタが分岐することもわかる. (2) 特異摂動的力学系の大域的構造の研究:Conley indexの理論をslow-fast systemsと呼ばれるある種の特異摂動的ベクトル場に対して構築することを目指し,まずその第一歩としてslow manifoldがnormally hyperbolicで1次元である場合について扱った.具体的には,そのような力学系における周期軌道やconnecting orbitの存在を示す位相的・代数的な条件を見い出した. (3) 流体方程式系の解空間の構造を解析するための計算機援用証明法の研究開発:水平な容器Gこ入れられた液体を下から一様に加熱する時の流体の熱対流(Raylcigh-Benard問題)の解は,Rayleigh数が増加すると,平衡解から定常分岐・Hopf分岐によって,定常パターンの形成あるいは周期的振動現象を呈し,更にchaoticな挙動・乱流へと多様な振る舞いをする事が観察されている.その解析は,平衡解からの最初の分岐による定常パターンの生成のみが,分岐理論によって示されている.しかし,その分岐した解の分岐曲線を大域的に追跡する解析方法は,上下の境界平面上で最も簡単なStress freeの境界条件を持つBoussinesq方程式の場合にも,数学理論としては確立されていない.この場合について大域的に分岐曲線を追跡し,解空間の大域的な分岐構造を解明するためにいかなる解析的基礎理論及び計算機援用証明法が必要かを研究し始め,パラメーターの値に対応した解の存在を保証する判定法を提出した.
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