研究概要 |
本年度の研究の主目的は、時間的に一様でないマルコフ過程のエルゴード極限定理の研究に関する前年度の理論を発展させ、従来の理論ではカバー出来なかった結果を得ることであった。前年度においては、時間的に一様な場合と同様に、ホップ型の最大不等式と同様な不等式を求め、それを用いて極限定理を導く方針で研究を行った。その方針で一般的な理論を得、それにより弱い意味での再帰性と一時性の、ある意味での類別は可能であるが、極限定理を得るためには付帯条件を付ける必要があった。さらに、その付帯条件を一般的な応用の場合に確かめるのは、現段階では明らかではない。そこで、本年度の研究においては、最大不等式に換えMeyerあるいはFitzsimmonsによるフィリングスキームの方法を用いる方針に変更した。その結果、到達確率に関する仮定の下で、時間的に一様でない場合にも基本的な不等式が得られる事が分かった。到達確率に関する仮定も、マルコフ連鎖の推移密度の条件でカバー出来るため不自然ではない。これを用いて、再帰性及び一時性のある種の類別が可能である。基本不等式を用いて、Gnρ(i,x)=Σ^n_k=E_<i(i,x)>(ρ(k,X_k))とおくとき、その比の極限F(i,x)=lim_<n→∞>G_nΨ(i,x)/G_nΨ(i,x)の存在が分かった。F(i,x)の特徴付けに関しては、時間的に一様な場合はρ、Ψの不変速度による積分の比に等しい。しかし時間的に変動する場合は、時間に依存しない不変測度は、多くの場合存在しない。この場合にも、時間に依存するある種の測度による積分の比に収束するための条件を与える事が出来た。
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