脳の情報表現の基本的な要素であり、未解決問題のひとつである情報の統合("バインディング")の機序をテーマとして動的セル・アセンブリー仮説の数理的研究を主題とする。この一環として、皮質内GABAa+GAP junction抑制系との相互作用などを考慮し、脳内の動的過程-リアルダイナミクスの理論的考察と大規模なスパイク・ニューロン系によるモデル論的研究を現在行っている。準備作業の一つとして、過渡的"シンクロニー"とその機能的意味について、最近のデータを踏まえたレビューをおこなった。まず、機能的リンクの指標とされる過渡的"シンクロニー"とその機能的意味について、C.グレィとW.ジンガー、A.ダマジオ、F.ヴァレラ、タロン=ボードリーらの仕事と主張を紹介、問題点を述べた。次に、実験的に示されている"シンクロニー"の時間、空間構造について、レビューをおこない、過渡的"シンクロニー"の時間的構造、スパイク・シンクロニーとその過渡性についてのC.グレイ('92)の仕事、バッタ(LOCUST)嗅覚系にかんするG.ローランら、またアリエリら、ヴァーディアらの立場を述べた。次に、脳内のリアルダイナミクスの神経基盤-皮質ニューロン像にかんする最近の知見として、皮質ニューロンにかんするコインシデンス・ディテクター性にたいするソフトキーとシャドレンの論争、マクラム、プーによるシナプス入力と細胞発火のタイミング関係によるLTP/LTDの知見などを紹介し、つぎに抽象コインシデンス・ディテクターの単純系について一つの動作原理を示した。最後に、過渡的シンクロニーについて、その形成の機序についての知見を述べ、閾値下の集合膜電位間(Local Field Potential)の位相同期のメカニズムについて考察した。
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